入院・分娩HOSPITALIZATION / DELIVERY

無痛分娩とは

目次

    陣痛の回数と出産のプロセス

    一般的に、初産婦では200回、経産婦では150回程度の陣痛を経て、赤ちゃんが生まれてくるとされています。
    わが国では古くから、お産は自然が一番、我慢することが美徳、苦しんで痛みを感じてこそ強い愛情が湧き、親子の絆が築かれるという思想があるため、いわゆる『産みの痛み』に対しては、母親学級などの事前講習・呼吸法などのトレーニングによる対応が行われてきました。
    また、薬剤に頼らないさまざまな方法(アロマセラピー・鍼など)により痛みは緩和されるものの、完全に産みの痛みから解放されるわけではありません。

    お産の痛みの特徴

    分晩第1期(開口期)

    お産に伴う苦痛の総称を「産痛」と言いますが、産痛は分娩の進行によって痛みの種類や場所が変化していき、痛さが移動するうえに痛みの種類が1つではありません。
    分娩第1期(開□期)には、子宮収縮によって赤ちゃんの頭が子宮口をグイグイ押し広げていくための痛み(内臓の痛み:内臓痛)は腰の骨(腰椎)の上部から胸の骨(胸椎)の下部の脊髄神経によって感じられます。

    分晩第2期(娩出期)

    分晩第2期(娩出期)では膣壁から外陰部にかけての産道が赤ちゃんに圧迫されて引き伸ばされるために起こる痛み(皮膚を切られるような痛み:体性痛)は主として仙骨部に入っていき、痛みとして脳に伝わります。
    このようにお産の痛みは分娩の進行に伴って痛みの種類と部位が変化していくのです。

    予めこれらの痛みの程度・持続時間が予測できれば妊婦さんも対応できるでしょうが、実際には予測できないだけにその痛みは恐怖を伴って増強してしまうのです。一般的に、いわゆる『産みの痛み』は歯痛・腰痛・骨折などはもちろん癌性疼痛(癌の末期症状の痛み)よりも強いとされています。この痛みは、出産経験者(自分の経験から予測できる)やマザークラスなどで事前に講習を受けた場合には軽くなり、安心できる人(ご家族・医療スタッフなど)が付き添っている場合や呼吸法(当院ではRIEB法)などのトレーニングを積んだ場合には緩和されます。しかし癌性疼痛より強いと言われる痛みが簡単にとれる訳ではないので、これらの強い痛みから妊婦さんを解放してあげることが「無痛分娩」の第一の目的なのです。

    無痛分娩の目的・効用

    1.妊婦さんを痛みから解放する

    痛みに対してネガティブなイメージの妊婦さんや、痛みによって興奮状態(極度の場合は錯乱分娩)になる場合には無痛分娩が効果的であると言われています。痛みによつて全身が硬直してしまうと産道を狭めてしまったり、子宮内圧が不必要に上昇して痛みが増強する一方になってしまいます。無痛分娩は、これらの強い痛みから確実に逃れることができる、あるいは逃してあげられる方法なのです。

    2.お産をスムーズに進める

    痛みによって母体の疲労が著しい場合や、お産の進行が遷延または停止するような場合には、無痛分娩を行うことによってお産をスムーズに進めることができます。

    3.赤ちゃんへの酸素供給を良くする

    痛みというストレスを受けるとカテコラミンが体内から分泌されて子宮胎盤血管の収縮・血流減少により赤ちゃんへの酸素の供給が悪くなります。痛みによって強いストレスを受けている場合や、お産の進み方によって子官胎盤血流が悪化する可能性がある場合には、無痛分娩特に硬膜外麻酔は陣痛を緩和することにより、子宮胎盤血流を改善して赤ちゃんへの酸素供給を良くすることができます。

    4.出産体験を肯定的に受け止められる

    ある出産体験に関係する研究においては、自然分娩を方針としている医療機関よりも、麻酔分娩を方針としている医療機関で出産した妊婦さんの方が達成感・満足感・成功感・安堵感などの『肯定的感情』が高く、出産体験を肯定的に受け止める傾向がうかがわれたと報告されています。

    5.緊急事態にも対応しやすい

    無痛分娩の手段として硬膜外麻酔によるカテーテルが留置されている場合には、お産の進行状況や赤ちゃんの状態によって緊急手術が必要になった場合にカテーテルからお薬を追加投与することで硬膜外麻酔下に帝王切開術が可能になります。

    6.少子化問題の解決策となりえる

    陣痛という痛みがなければもう一人産んでもよいと回答される産婦さんも少なからずおられることは事実であり、無痛分娩を提供することにより少子化問題の解決策の1つとなりえるかもしれません。

    無痛分娩の種類

    和痛分娩法と無痛分娩法

    無痛分娩法には麻酔に頼らない和痛分娩法(ラマーズ法・ソフロロジー法・リーブ法・鍼・アロマテラピーなど)と薬物を用いた無痛分娩法があります。
    麻酔による無痛分娩には全身麻酔(吸入麻酔・静脈麻酔)と局所麻酔(神経ブロック・脊髄くも膜下麻酔・硬膜外麻酔)に大別されます。

    無痛分娩法のメリット

    無痛分娩法としては

    1. 十分な鎮痛効果が得られる
    2. 母体の意識が保たれ出産に積極的に参加できる
    3. 赤ちゃんへの影響がない
    4. お産の進行に影響がない

    上記のようなメリットが望ましく、最も理解に近い鎮痛方法として、硬膜外麻酔が行われています。

    1.全身麻酔

    手軽さの反面、完全な鎮痛効果を得るには栗剤を多量に必要とするため、妊婦さんへの影響(意識・呼吸・循環抑制)や、赤ちゃんへの薬物移行を考慮する必要があります。出産が記憶として残らず、赤ちゃんを産んだという充実感が得られないことがあり問題となります。

    静脈麻酔
    鎮静目的にはベンゾジアゼピン・バルビツレート、鎮痛目的にはオピオイド・ケタミンを使用。いつたん投与されると調節性に欠けるのが欠点。
    吸入麻酔
    吸入麻酔薬(ハロタン・イソフルラン・セボフルランなど)や笑気を使用するが、過量投与による意識・呼吸・循環抑制が問題になることがある。また吸入麻酔薬による子宮弛緩作用により分娩経過。産後出血に影響が出ることがある。

    2.局所麻酔

    手軽さの反面、完全な鎮痛効果を得るには栗剤を多量に必要とするため、妊婦さんへの影響(意識・呼吸・循環抑制)や、赤ちゃんへの薬物移行を考慮する必要があります。出産が記憶として残らず、赤ちゃんを産んだという充実感が得られないことがあり問題となります。

    陰部神経ブロック
    分娩第2期の鎮痛に適しているが、局所麻酔薬の過量投与による局所麻酔薬中毒発生に注意が必要。
    傍子宮頚管ブロック
    分娩第1期の鎮痛に適しているが、頻回に処置をする必要があることなどから積極的には勧められない。
    脊髄くも膜下麻酔
    最近では低濃度局所麻酔粟・麻薬の併用により有用性が認められてきているものの、妊婦では血圧低下、運動神経完全遮断による分娩の進行障害や掻痒感の発生、持続時間の限定、感染、処置後の頭痛(硬膜穿末丁後頭痛:PDPH)が欠点とされている。
    硬膜外麻酔
    お産に伴う痛みは硬膜外麻酔(カテーテル法)により鎮痛が可能。
    運動神経遮断を起こさない低濃度の局所麻酔薬を使用して、場合によつては麻薬(オピオイド)の併用投与をすることで鎮痛の質が高まると言われている。
    血圧の低下、局所麻酔薬の長時間投与や高濃度薬の使用により下肢の運動麻痺が起こる可能性がある。
    産婦さんが希望されない場合、穿刺部位の感染、出血傾向、中枢神経系の器質的疾患は硬膜外麻酔の禁忌となります(行えません)。
    メリット
    • 陣痛の痛みを調整ウィ、しっかり「いきんで」出産ができる
    • お産の疲れが少なく、回復が早い
    • 赤ちゃんへの麻酔の影響がない
    デメリット
    • 一時的に低血圧、頭痛、嘔吐などの副作用がある
    • 痛みの軽減により陣痛が弱くなり、吸引分娩、子宮収縮安定促進
    • 剤の使用頻度が高くなる

    鎮痛促進剤の危険性および副作用

    陣痛促進剤も薬剤の一種ですから、副作用が全くないわけではありません。
    薬剤によるアレルギー反応やショック、新聞紙上などで話題になった子宮破裂や過強陣痛、過強障痛による大出血や胎児仮死が起こる可能性があると言われています。また、羊水基栓症(分娩時に羊水が母体の肺の血管に入つて呼吸困難になり、死に至ることもある)や分娩後の弛緩出血などの母体合併症があると言われています。しかし、これらの合併症は自然分娩でも起こり得ることです。適正な使い方をしている限り、陣痛促進剤を使用したためにその危険性が特に増すことはないとされています。
    なお、一度陣痛促進剤の投与を始めて経膣分娩を目指していても、胎児の状態および分娩の進行状況によっては経陛分娩をあきらめて帝工切開分娩を行なう場合もあります。